ミッドセンチュリー家具の代表的モデル、「パントンチェア」やイサム・ノグチの「コーヒーテーブル」は大変有名ですよね。
実はこれらの家具はスイスの家具ブランドVitra(ヴィトラ)が製作しているのをご存知でしょうか?
しかしこれらの有名なチェアを製作する以外にヴィトラはどのような事業を展開しているかについてはあまり知られていません。
ヴィトラの事業について「デザインそのもの」と形容する方もおられますが、実際どのようなブランドなのでしょう?
そこで今回は、ヴィトラデザイン家具の特徴や、その歴史と魅力についてご紹介していきます。ヴィトラの建築やデザインについてご紹介していきますので、是非ご覧下さいね。
ヴィトラってどんなブランド?
引用 : https://www.vitra.com/ja-jp/about-vitra/what-we-do#
スイスで1950年に創業したヴィトラ社は、ミッドセンチュリー期を代表するデザイナー家具をヨーロッパで扱うブランドとして成長しました。
1960年代よりヴィトラが扱う家具の代表的なデザイナーとしてチャールズ&レイ・イームズやジョージ・ネルソン、ヴァーナー・パントン、イサム・ノグチなどがあります。
特にイームズやジョージネルソンについては、日本やアメリカではハーマンミラー社が有名ですが、ヨーロッパ圏ではヴィトラが販売権を所有していました。
現在では数々のデザインミュージアムを所有し、家具やオフィスなど建築のデザイン研究、プロデュースを行う世界有数のデザイン会社として世界中から注目されています。
イームズとの運命的な出会い
引用 : https://static.vitra.com/OFML/data/9DIfX5qUVzTg3gi-ff_Nkg/vitra/vdmcollect/JP/1/image/20208102.jpg
創業から暫くの間、ヴィトラ社は店舗の什器や内装関連の製造メーカーとして営業していました。
数年後、創業者であるウィリー・フェルバウム氏はニューヨークに渡航の際、ある一脚の椅子のデザインに大変興味を持ちます。
その椅子こそ当時アメリカで一世を風靡していたイームズデザインの赤いプライムウッドチェアでした。
フェルバウム氏は「ヨーロッパで是非イームズのチェアを広めたい」とイームズ夫妻と親交を深め、その夢は実現します。
1957年、ついにイームズをはじめネルソン、ジラードなどの製造販売権(ライセンス)を獲得。ヴィトラはヨーロッパにおけるミッドセンチュリー家具メーカーとして大きく発展することになりました。
ミッドセンチュリー家具についてはコチラ
ヴィトラ名作チェアの誕生
ヴィトラ社がライセンスを獲得し10年が過ぎた1967年、デザイナーヴァーナー・パントンとの共同開発の末「パントンチェア」を発表しました。
一体成型された美しいシルエットは、ミッドセンチュリー家具を代表するデザインチェアとして世界的な人気を獲得。
ヨーロッパ発、世界的なミッドセンチュリー家具カンパニーとしての地位を確立しました。
建築とミュージアム設立へ
引用 : https://static.vitra.com/media/asset/570590/storage/v_fullbleed_1440x/05675390.jpg
ヴィトラの経営をロルフ、レイモンドの2人の息子が継承し数年後の1981年、当時の生産工場が大火災となってしまします。
しかし当時のヴィトラ工場復興の計画を担当したニコラス・グリムショーは約半年という超短納期でプレハブの建築を設立しました。
一方、経営者のロルフ、レイモンド両氏は父から譲り受けた家具のコレクションに加え自らも貴重な家具を収集する世界有数のコレクターでもありました。
1987年にはアレクサンダー・フォン・フェーガザック氏と出会い、1880年〜1945年の貴重な家具コレクションを譲り受けます。
1989年、これらの貴重な家具を展示するミュージアムとして、このプレハブ建築を「ヴィトラ・デザインミュージアム」の最初の建物として設立。世界的に貴重な家具を展示するミュージアムとして話題になりました。
ヨーロッパの家具の歴史を繋ぐヴィトラ
家具の歴史から考えると実に奥深い事ですが、1910年頃から始まる世界的なモダンの流れを受けドイツで開校したバウハウス。
第二次世界大戦の影響下だったバウハウスは約14年で閉鎖となり、著名なデザイナー達はアメリカへ亡命しました。
その後ミース・ファン・デ・ローエが携わったknoll(ノール)社、イームズなど多くのデザインを生み出したミッドセンチュリー家具が、ヴィトラデザインミュージアムには収蔵されています。
このようにヴィトラが建設したデザインミュージアムは、ドイツで生まれた家具の「モダンに於ける歴史」を繋ぐ貴重な文化遺産として、世界中の旅行者が訪れるスポットとなりました。
ヴィトラキャンバスとしての功績
ヴィトラデザインミュージアム設立後は多くの建築家やデザイナーが集まり、カフェや製造工場、ショールームや美術館などが次々に建てられ「ヴィトラキャンバス」として運営されるようになりました。
現在ヴィトラキャンバスは「デザイン」というキーワードをもとに多くのコミュニティが集う集合体として機能しています。
「ヴィトラ=デザインそのもの」と評する方がいる理由をお分かり頂けたでしょうか?
バウハウスについてはコチラ
家具ブランドとしてのヴィトラ
ヴィトラは新たな家具を開発するモダニズムを体現するブランドでもあります。ここでは2019年にミラノ・サローネで発表されたコレクションを2点ご紹介します。
デザインの巨匠チッテリオの新作チェア
Grand Relax・グランドリラックス
Antonio Citterio, 2019
B&Bのコレクションなども手掛けるデザイン界の巨匠、アントニオ・チッテリオ。少し控えめでシャープなラインながらもどこか温かみを感じるデザインは、包み込むようなリラックス感を楽しめます。
ヴィトラのオフィスチェアなどに搭載されているシステムを使用、背と座の角度やリクライニングの硬さを自動調整できるシステマッチックなチェアです。
都会的なファブリックが印象的なソファ
Vlinder Sofa
Hella Jongerius, 2018
シンプルな形状に、特別な色柄のファブリックを合わせたソファ。テキスタイルデザイナー、ヘラ・ヨンゲリウスの都会的かつ優しい風合いのファブリックセンスが秀逸です。
2種類の太い糸を紡いだ厚みのあるジャガード織りは、シンプルな図柄と対照的な温かみがあります。「張り地からモダンを感じる」新しい提案ソファですね。
斬新なカラーコーディネート使いも参考
ヴィトラでは卓越したデザインセンス以外にも、空間コーディネートの際の家具の組み合わせや色使いも特徴的。
ミッドセンチュリーをベースにしつつ、常に現代の空間に合わせた色柄を組み合わせています。他にはないカラーコーディネートセンスも参考にしたいところですね。
まとめ
今回は、ヴィトラデザイン家具の特徴やその歴史と魅力についてご紹介しました。
ヨーロッパ発の家具ブランドながら、イームズなどミッドセンチュリー期の家具と深く関わりのあるエピソードなどが印象的でした。
また、デザインミュージアムやキャンバスを運営する今日のヴィトラについても、建築や家具の美術館といった「デザインそのものの魅力を」伝える方法として機能している事が理解できました。
バウハウス時代から続くモダニズムを伝え、今後の家具や建築の開発を行うデザイン企業ヴィトラ。
デザインの重要性に気付く事ができる稀有なブランドを、これからも注目していきましょう。